———7年越しに辿り着いた“あの表情”に、すべてを持っていかれた。
たった今、我が最愛とも言える推しジャック・ロウデンが最高の演技を見せたと言われる作品であり、また巨匠テレンス・デイヴィス監督の遺作ともなった『Benediction(祝祷)』(BBC Film 2021年)を観終わりました。作品の、そしてジャックの演技のあまりの素晴らしさに、ラスト10分くらいは震えが止まりませんでした。

★『Benediction』とヲタク
第一次世界大戦に従軍し、戦功を立てながらも戦地での悲惨な体験から反戦の詩を書き続けた英国の詩人ジークフリード・サスーン。『Benediction』は彼の半生を描いた作品で、英国では
"Staggering"(Variety)
"Spectacular"(Indi Wire)
と絶賛され、製作総指揮・主演を務めたジャックも、今作の卓越した演技で英国アカデミー賞とICS(国際シネフィル)主演男優賞、カンヌ国際映画祭ショパール賞受賞❗️-------なのになぜか、英国公開から6年も経つというのに、日本では劇場公開はおろか、配信もいまだにされていない⋯(泣)
でもってついに堪忍袋の緒がキレたヲタクは(笑)英国から直接DVDを取り寄せることにしました。もちろん再生用にPAL方式対応のDVDプレイヤーを予め購入して^^; 待望のDVDは注文から3週間を経て、やっとヲタクの手元に届いたというわけです。昨夜、仕事から帰ってきたヲタクが、DVDの入ったFederal Expressのパッケージを見た時の狂喜乱舞ときたら❗️とても人にはお見せできない痴態でございましたことよ(笑)
★サスーンとウィルフレッド・オーウェン、運命の出逢い
ユダヤ系大富豪の家系に生まれ、1913年27才の時に処女詩集を出版したジークフリード・サスーン(ジャック・ロウデン)。その後第一次世界大戦中、軍人として戦地に赴き大武功を立て、戦功十字勲章を授与されたにも関わらず、大戦の非人道性に憤り、多数の若者の犠牲を出し続けている政府を批判した文書を公開します。
彼自身、軍法会議も辞さず犯罪に問われても構わない⋯という覚悟でしたが、結局は「彼は精神を病んでいる。治療が必要」という軍上層部の判断により、スコットランドの精神病院に強制的に入院させられてしまいます。

そこで彼は、ウェールズの労働階級出身で、詩人を志す若者ウィルフレッド・オーウェン(マシュー・テニソン)と運命の出逢いを果たします。サスーンを兄とも、師とも慕う純粋なオーウェンに、サスーンもまた深い魂の響き合いを感じるのでした。しかしオーウェンは病院で治療を受けている自分自身に忸怩たる思いがあり、「今一度お国のために役に立ちたい」と戦地復帰を自ら志願、終戦の僅か2週間前、25歳の若さで帰らぬ人となり-------❗️

※戯れにサスーンとオーウェンがタンゴを踊るシーン。直後に彼らを襲う悲劇を思うと、2人が可愛くて切なくて悲しくて、ヲタク号泣😭実際2人の関係がどうだったかわかりませんが、作品中では純粋にプラトニックな関係として描かれています。
★ジャック・ロウデン、至高の演技
サスーンを演じるジャックが、初めてオーウェンの詩『不能(Disabled)』(第一次世界大戦の最前線、オーウェンが凍死した戦友の遺体を見て感じた虚無感と無力感を描いた1918年の作品)を読み、感動に目を潤ませながら「君は天才だ❗️」と叫ぶシーン。
オーウェンの前線復帰を知らされた時の絶望の表情。
「彼(オーウェン)に初めて会った時、僕は彼のウェールズ訛りをからかった。なんて俗物野郎なんだ、僕は❗️彼の詩に比べたら、僕のなんてエゴの表出にしかすぎない」と、彼の治療担当の精神分析医に向かって呟く時の自嘲。
そして最後の別れ。戦地に赴くオーウェンに向かって、「1分でも1秒でもいい、君をここに留めておきたい」と懇願するシーン--------。
数えたらキリがないけど、何と言っても白眉はラスト❗️サスーンにとって最大の衝撃であり、その後のサスーンの人生を「虚無」に変えてしまったオーウェンの死は、映画の途中でサスーンのモノローグでさらりと語られるだけ。
しかしそれはさすがの老練テレンス・デイヴィス監督の意図した"演出"であって、この映画は、最も残酷な瞬間を“最後まで温存”していたのです。
ラストのクライマックス、オーウェン戦死の報を初めて知った時のサスーンの表情---------
ひと言も台詞を発せず、怒りと悲しみ、絶望と救いの希求が渾然となったジャックの表情こそ、英国の映画評論家ジョーダン・ホフマン氏が
The last shot of the film—a single take in which Lowden’s face melts from emotional overload while his wartime poem is read in voice over—is one of the more devastating pieces of cinematic punctuation in recent memory.
映画のラストシーン‥‥彼の反戦詩が朗読され、ロウデンの、激情から解放されていく表情は、近来まれに見る的確な映像表現の1つと言える。
と絶賛した演技なのか-------❗️
ヲタクがホフマン氏のこの演技評を読んで以来7年間、あれこれと想像(妄想❓️)し続けてきたジャックの至高の演技を実際に目にすることのできたこの喜びは、とても言葉では言い表せません。生きてて良かった⋯本当に。

魂の空白を埋めるように、※アイバー・ノヴェロ(左…ジェレミー・アーヴァイン)との爛れた生活にのめり込んでいくサスーン(右⋯ジャック・ロウデン)ですが⋯。
※アイバー・ノヴェロは実在の人物で、20世紀の初頭最も人気のあった英国の作曲家、歌手、俳優。作品中、ノヴェロを演じるジェレミー・アーヴァインが『And Her Mother Came Too』をピアノで弾き語りするシーンがあります。
オーウェンほどの煌めく才が、戦争によって理不尽にも奪われた後、同性愛者であるサスーンは心の空洞を埋めるかのように、様々な男たちとの愛欲に溺れ、生活は荒んでいきます。自堕落な生活を一新しようと決意して結婚し、一子を設けたが家庭生活は上手くいかず、晩年(70歳頃)魂の救済を求めて、カトリックに改宗したと言われるサスーン。

※名家の子女ヘスター(左⋯ケイト・フィリップス)はサスーン(右⋯ジャック・ロウデン)に惹かれ、彼が男性しか愛せないと知りつつ結婚しますが⋯。
果たして彼はタイトル『Benediction(祝祷⋯主に教会の礼拝の最後に行われる、牧師や司祭が神の祝福を会衆の上に与える祝福)』の如く、神からの祝祷を受けることができたのか❓️

※サスーンの晩年期を演じるのは、英国の名優ピーター・キャパルディ。サスーンの虚無、心の空洞を表現するいぶし銀のような名演。
この作品において戦争は単なる背景ではなく、サスーンの想い人であったオーウェンの人生そのもの、ひいてはサスーン自身の魂を決定的に破壊した“原点”として刻まれているのです。
脚本・監督を担当したテレンス・デイヴィス監督がこの作品完成の2年後、2023年に死去、還らぬ人となった今ではもはや、その意図したところも定かではありません。
第一次世界大戦当時の戦場の目を覆いたくなるような実写フィルムや写真、一転して美しい英国の田園風景や上流階級の人々の豪奢な生活が交互に描写されるこの作品の中で、ヲタクの脳裏にはただただ、生への渇望、哀願、怒り、悲しみ、祈り-------人間のあらゆる感情を言葉ではなく、その瞳の色と視線の行く先、表情で描出し尽くした、不世出の演技者ジャック・ロウデンの素晴らしさが深く刻まれたのです。
その瞳の奥に宿るのは、もはや言葉では掬いきれない祈りなのか、それとも——祈りすら失った魂の残響なのか。
『Benediction(祝祷)』というタイトルの意味を、私は今もなお、彼のあの表情の中に探し続けている。
★今日の小ネタ…実は豪華すぎた❗️共演陣
スコットランドの病院で、サスーンの性的嗜好を薄々感じつつ温かな理解を示す精神分析医に、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で反乱軍のパイロット、メリック将軍役を好演したベン・ダニエルズ、サスーンが同性愛者と知りながら彼と結婚する妻ヘスター(若い頃)にケイト・フィリップス、そしてサスーンの編集者にシェイクスピア俳優のサー・ラッセル・ビール…と、共演陣も超豪華。

※撮影の合間に談笑する故デイヴィス監督(左)、ケイト・フィリップス(中)、ジャック・ロウデン。そう言えばこの映画、コロナ禍の真っ最中に撮影されたんでしたね⋯(遠い眼)
ベテラン勢の他にも、ウィルフレッド・オーウェン亡き後、サスーンの男性遍歴❓️の相手役として、『ハンガー・ゲーム0』(2023年)で主役を張ったトム・ブライス、カラム・リンチ(Netflix『ブリジャートン家』セオ役)、ハリー・ローティー(『ジョーカー:フォリー・ア・ドゥ』ハービー・デント役)ら、英国のイケメン・ライジングスター総出演となっています。

※今では英国内やハリウッドで大活躍中、『Benediction』に出演していた新人俳優たち。トム・ブライス(左)、ハリー・ローティー(右上)、カラム・リンチ(右下)
はー、ストーリーも演出も映像も主役(ジャック・ロウデン)の演技も最高、共演陣も超豪華⋯なのになのに、なぜ日本で公開されないの❓️(⇐しつこい 笑)